プロバンス記 その31 もっとも幸運だった最悪の日 ③

 

worstdayお婆ちゃまが指さしたアスファルトに落ちたブレーキランプの破片を見て、彼らが自分たちの車をバックしたときに誤って私の車にぶつけたのだと思いました。
自分のシトロエンを確認してみると、ありがたいことにバンパー部分に小さな傷が付いただけです。
これくらいならレンタカー会社も何も言わないでしょう。
私は「いいよ、これくらい大丈夫。ノープロブレム。オーケー、オーケー。」
と、お婆ちゃまたちをなだめようとしましたが全然納得してくれず、さらに何か訴え続けています。

わかんないな~。と思っていたらひとりの男性がやって来ました。
どうやらお婆ちゃまたちのお連れのようで年齢は私と同じくらいでしょうか。

” Is it your car? ”

と訊ねてきたので、そうだと答えると、
「君の車が私の車にぶつかったんだよ。」と。
そんなことあるわけがありません。
私は自分で車を運転してここに駐車したのです。
前の車にぶつかっていたら私が気付かないはずがありません。
私がそう主張すると、
「サイドブレーキはかけたかい?」

 

えっ!?

 

急いでドアを開けて車内を確認してみると運転席横のサイドブレーキのレバーは引かれていませんでした。
私は状況を理解しました。
私はプロバンスでの運転をビュンビュン楽しもうとマニュアル車を借りていました。
マニュアル車というのは、車を離れるときはシフトレバーをニュートラルにしてサイドブレーキをかける必要があります。
私が日本で普段使っている車はオートマチック車で、シフトレバーを”P”ポジションにしてエンジンを切ると自動的にサイドブレーキがかかる仕組みなので車を停めるときにサイドブレーキをかける習慣がないのです。
実はこれまでも旅の途中で何回かサイドブレーキをかけ忘れて車を離れたことがあったのですが、停めた場所が傾斜していなかったためか事なきを得ていました。
ところが、今日はどうやら前方に緩く傾斜した場所に車を停めたようです。
私がサイドブレーキをかけ忘れて車を離れた後に、傾斜によってゆっくりと前方に進んだ車が彼らの車の後部にぶつかったのでしょう。
「あのトラックの運転手が君の車が私たちの車にぶつかるのを見ていたんだよ。」
見るとトラックの横の木陰で休んでいる運転手がこちらを睨んでいます。

 

「何が起こったかを理解しました。申し訳ありませんでした。
でも心配しないでください。私は保険に入っているのであなたの損失を補償できます。」
完全に私の過失で彼らに迷惑をかけたことがわかった私は心から謝るとともに解決策を提案しました。
男性はやれやれという顔をしながら、私の目を真っ直ぐに見て言いました。

 

「そうなんだよ。解決策は2つあるんだ。」

 

2つ?

私が危険を察知したときに頭の中で点灯する赤いランプが音もなく回り始めるのを感じました。

カテゴリー: TACHIZONO   パーマリンク

コメントは受け付けていません。